【なんとなくわかる量子化学】第4回 やっぱり解けないシュレディンガー方程式と
多体問題
さて、前回までのお話で、π共役系のエネルギーを求めることができました。でも、もっと精度よく計算したいので、原子核も含めて分子のシュレディンガー方程式を解きたい所なのですが…
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> 分子のシュレディンガー方程式は解けません <
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これは数学的にわかっていることで、多体問題と呼ばれます。残念ながら、水素原子が水素分子になった瞬間、粒子数が多すぎてシュレディンガー方程式が解けなくなってしまうのです。そのため、いかにして系を近似するかというのが課題となっています。
摂動法
偉い人は考えました。ハミルトニアンをちょっと動かせば固有関数もちょっと動くはずだと。つまり、元々のハミルトニアンと固有関数のセットを、。ちょっと動かしたハミルトニアンをとすると、
この時、変化したエネルギーは、
と書くことができます。これを(一次の)摂動と呼びます。二次以降は今回扱いません。
ちなみに、波動関数は直行規格化しておかないと摂動の計算が大変なことになるので、規格直交基底で
ある前提でお話しします。
※規格直交規定とは:内積がクロネッカーのデルタになるような関数の集まりのこと。詳しくは調べてみてください。
変分法
ってな訳で昔のえらい人(ヒュッケルさん)が、これをうまいこと処理できないかと考え、変分原理を用いた変分法を使ってみることにしました。変分原理とは、
が成り立っている時、ハミルトニアンに固有関数でない、適当な偽の関数をかけると、
と計算ができてしまいます。この時現れた偽のエネルギーの値との間には、
という関係性があり、つまり、偽の関数でエネルギーを最小化できれば、正しい固有関数に近づくということです。この偽の関数のことを試験関数と呼び、この手法を変分法と呼びます。
ヒュッケル近似法
それでは、ヒュッケルさんの本領発揮といたしましょう。ヒュッケル近似とは、炭素原子のπ電子からスタートして、非局在化による安定化エネルギーを摂動で取り扱います。
試しにブタジエンで計算してみましょう。試験関数は左からn番目の炭素のπ電子をとして、
各cはそのπ電子が分子の軌道にどのくらい寄与しているかの値です。
摂動エネルギーは、
これを最小にするために、微分を使います。微分した値が0である点がエネルギー最小である(今回は簡単のため、極大や極小を考えません。)ということを使います。
両辺をでそれぞれ微分する事で
ただし、
それ以外はゼロとしました。これをヒュッケル近似と呼びます。
のことを、自己積分と呼びます。よくよく見ると、自己積分はπ電子が持つ元々のエネルギーを表していることがわかります。
のことを共鳴積分と呼び、隣接するπ電子の非局在化を表します。
とにかく、あの四元一次連立方程式さえ解くことが出来れば、エネルギーを求めることが出来そうです。
ところで、何かおかしなことに気が付きませんか?そう、みてわかる通り、が解になってしまうのです。それでは軌道が消えてしまい、何の意味も無くなってしまいます。これ以外の解を探すには、高校数学では残念ながら…
次回予告!
連立方程式解きます!代入したり消去したりだけが解法でないことを思い知らせてやる!
2020.06.06